歯科医療理念

保険でよい歯科医療の実現で健康増進社会へ

 私たちが求める健康観とは、人生の最後まで人間らしく、自分らしくあり続けることです。そのためには、何でもおいしく食べられること。口の健康が命の豊かさに大きく影響します。
 格差社会の進行、不安定な雇用、実質賃金の減少、長時間労働、医療改悪による自己負担の増大が、国民を歯科医療から遠ざけています。
 歯科は、所得によって治療にかける費用の差がでています。患者負担が増加するたびに、痛くても、歯がなくて噛めなくても我慢する方が多くいます。
 また、長年にわたる歯科医療費の抑制策が、歯科医療の人材難、経営難をまねき、歯科医療も崩壊の危機に直面しています。
いつでも、誰もが、安心して、保険で良い歯科医療を受けられるように、歯科医療政策を抜本的に転換することが求められています。


「8020」達成率の低い日本

 よく噛んで食べられる人は、社会生活も活発で、重い病気にもかかりにくいという結果が各種調査で出ています。「8020」運動は、80才で20本以上の歯を残す運動です。日本人は、80才で平均8本しか歯を残していません。また「8020」の達成率は、日本人15%と諸外国と比べても歯の残存率は高くありません。

収入格差が歯科受診の格差にで良い歯科医療を

 働く貧困層の急増や収入格差が広がるなか、歯科受診を控える人が増加しています。
 収入格差が受診の格差となっている事例が増えています。お金の心配をせず、誰もが安心してかかれる歯科医療を保障することが必要です。

成人期の公的健診の機会が少ない日本

 日本では乳幼児の健診受診率は、医科・歯科とも大差なく、低年齢でのう蝕(虫歯)罹患率が減少しています。一方で、成人期の歯科健診が充分に保障されておらず、40代・50代の8割~9割が歯周病を罹患していると言われています。

すべての国民に歯科健診・治療の保障を

 学校保健法や母子保健法で健診の機会が保障されている乳幼児、学童、生徒、妊産婦を除いて、国民には歯科健診の機会が事実上保障されていません。労働安全衛生法や特定健診・特定保健指導等での歯科健診や公的な健診を拡充することが必要です。
 また、そのためにも保健所などの公的施設にも歯科を設置し、歯科医師や歯科衛生士を配置するなどして、在宅患者や障害者なども含め、全ての国民が安心して健診や治療が受けられるように歯科医療体制の拡充整備をおこなうことが必要です。

口腔ケアの充実を...歯周病菌と全身の病気

近年、口と全身との科学的解明が進み、歯周病菌と肺炎、心内膜炎、低体重児出産、動脈硬化、糖尿病などの関連が報告されています。
 特に高齢者の直接死亡原因上位にある肺炎は、外部からの病原菌等が原因ではなく、口腔内で増殖した肺炎原因菌を肺に誤嚥することで肺炎を発症していると言われています。
 高齢化社会を迎え、要介護者、認知症高齢者は大幅に増加すると予想されており、高齢者の"生活の質"から見ても、口腔機能の向上をはかることが必要です。

う蝕(むし歯)、歯周病予防のとりくみを

 先進国では、既にう蝕の抑制に成功しています。日本でもう蝕が減少してきましたが、諸外国と比べ依然高いう蝕率となっています。子どもの歯の予防に力をかけることが、ひいては成人期の欠損、歯周病の予防につながります。乳幼児や学童に対する教育、う蝕、歯周病予防の生活習慣の確立、フッ化物の適用など、予防歯科医療を抜本的に強化することが必要です。

保険のきく範囲を拡大し、患者負担の軽減を

 患者・国民の歯科医療に対する要望では、各種調査で「保険のきく範囲を広げてほしい」「新しい技術も健康保険で診てほしい」が圧倒的に高い要望になっています。 
 医科では新しい技術は一定臨床で行われ実績を積むと保険適用されています。しかし、歯科では過去30年間新しい技術はほとんど保険適用とされず、基本的な技術になっているもの(セラミック冠、金属床、矯正など)でさえ認められていません。患者・国民の歯科治療において有益な基本的技術は、早急に保険適用とすべきです。
 また、高齢化が進行するなかで、在宅・訪問歯科診療を拡充することも必要です。 保険のきく範囲を拡大し、患者の負担を軽減する抜本的な政策転換が求められます。

診療報酬の大幅な引き上げを

 これまで歯科医療は、日本の医療費抑制の先陣とされ、長期にわたって低い診療報酬で据え置かれてきました。
 こうした中、多くの歯科医院では経費の削減のために、歯科材料費の削減やスタッフの削減、職員の賃金の抑制、外注技工料金の抑制などで対応しています。
 しかし、このような対応だけでは限界があり、安全・安心・信頼の歯科医療が崩壊する状況となっています。
 歯科医療費を増やし、診療報酬を大幅に引き上げることが必要です

歯科スタッフの充実と育成を

日本歯科技工士会の「2006年歯科技工士実態調査結果」によれば、自営歯科技工士のほぼ半数が週労働時間76時間を超え、年間に換算すると4,000時間以上です。平均年収も、勤務者の約3分の1は年収250万以下です。こうした「長時間・低賃金」のために、20代の離職率は7割となっています。養成学校も閉鎖・縮小が相次ぎ、このまま推移すれば、将来保険で「入れ歯(義歯)」や「被せ物(冠)」を作製する技工士が日本にはいなくなる恐れがあります。
 また、歯科衛生士も、2007年度の登録者は約21万人弱で、毎年約7000人の免許取得者が増えているにも関わらず、実際の就業者は約8万7000人となっており、全国の32%の歯科事業所で歯科衛生士を雇用できないなど歯科衛生士の不足が問題となっています。
 いつでも誰もが安心して歯科治療をうけられるように、歯科スタッフの育成と働きつづけられる労働環境づくりが必要です。
 歯科医師の養成については、現状の歯科医療供給体制の延長線上で養成数を検討するのではなく、全国各地の公的施設への配置や予防歯科医療の拡充など、真に国民の求める歯科医療への政策転換を計画するなかで検討すべきと考えます。

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